鳥居泰宏/ Northbridge Family Clinic


性的行為によって感染する病気のことです。このタイプの感染症の多くは少なくとも初期段階では無症状のことが多く、知らずに他人にうつしてしまうこともよくあります。性感染症にかかるリスクが高いグループの人は定期的にスクリーニング検査を受けておくことが理想的です。そして、もし感染が発覚すれば性的なコンタクトがあった人にできる限り連絡を取り、検査を促すことも大切です。

性感染症のリスクの高いグループ

*25歳以下で性生活が活動的な人
*男性同性愛者
*セックス産業で働く人
*薬物乱用者

共通して言えるのは多数不特定の相手とコンドームを使わずに性交渉を繰り返しているような人が一番の高リスクです。

クラミデイア

オーストラリアで今一番多いバクテリアによる性感染症です。若い人、アボリジニー、トレス島民、そして男性の同性愛者のあいだでよくおこります。男性も女性感染者も症状がなく、気づかずにいることが多いので、知らずに他人にうつしてしまう危険があります。
尿道炎、子宮頸部炎、骨盤腹膜炎、睾丸炎などをおこし、症状があるとしたら尿道からの分泌物、おりもの、排尿時痛、不正出血、性交後出血、下腹部痛や睾丸の痛みなどがおこります。潜伏期間は5-10日です。感染後2週間以内で検査をした場合、偽陰性という結果が出ることもあります。
検査法は比較的簡単で、最近ではほとんどの場合、ポリメラーゼ連鎖反応検査(ある特定の遺伝子配列の二重鎖DNAを繰返しコピーする酵素学的方法. 微小量の生物学的材料を増幅し, 実験的研究に十分な試料を提供する)が使われます。サンプルは尿(男性も女性も)か、女性の場合は膣からの分泌液を綿棒で採取したもので足ります。同性愛男子の場合、肛門からのスワブも必要です。治療はazythromycinという抗生物質を1g1回飲むか、doycycline 100mgを一日2回で1週間続けるかのどちらかです。女性の場合、上部生殖器官(子宮内膜炎や卵管炎、骨盤腹膜炎)まで影響されている疑い(発熱、下腹部痛、おりものなどの症状)があれば azythromycin 1gと doxycycline 100mg一日2回を2週間、それに metronidazole 400mg一日2回を2週間という治療が必要です。性感染症の場合、一つの菌による感染があば同時にその他の菌による感染を併発していることもよくあります。特にクラミデイアの場合は淋病も併発していることがありますので、その疑いが強ければ ceftriaxone という抗生物質も使われます。この薬は筋肉注射による投与です。
性交相手がはっきりしていれば同時にそのパートナーも検査を受け、治療をしておくべきです。治療後1週間は性交は避けなければいけません。性交相手が特定な人でなかった場合、過去6ヶ月間に性的コンタクトがあった人を確認し、性感染症の疑いがあることを通告し、検査、治療を薦めることが理想です。この追跡調査は患者さん自身でするか、医師(一般開業医、あるいは性病クリニック)に依頼してコンタクトに通知してもらうこともできます。クラミデイア感染の場合はコンタクトの追跡は過去6ヶ月間が薦められています。

淋病

オーストラリアではクラミデイアほど頻繁におこる感染症ではありませんが、アボリジニー、トレス島民、同性愛男性のあいだでは比較的多めです。男性では通常尿道炎の症状がおこり、尿道から膿みが出たりします。女性の場合、約半数は無症状です。症状がおこるとすればおりもの、排尿痛、下腹部の痛み、不正出血などです。
検査はクラミデイアのときと同じように尿や膣の分泌液を使ったポリメラーゼ連鎖反応検査(PCR, polymerase chain reaction)が使われますが、抗生物質耐性のある菌も出てきているので培養検査をしておけば抗生物質感受性も確認することができます。
治療は ceftriaxone の投与です。クラミデイアと同様、治療後1週間は性交を避けることが薦められます。もちろん性的コンタクトの追跡、検査、治療も大切です。淋病の場合、追跡は過去2ヶ月間におけるコンタクトです。

梅毒

Treponema pallidum というバクテリアによる感染症で、やはり性的コンタクトによってうつります。梅毒の場合、オラルセックスでも容易にうつります。症状には3つの発展段階があります。症状が他の病気と似ていることが多く、比較的認識しにくい病気です。
第一期には下疳という感染部位の皮膚または粘膜におこる暗赤色の硬い無感覚の丘疹で、中心部は通常, 腐食するかつぶれて潰瘍になります。菌が浸潤した部位(ほとんどの場合は性器)におこる変化で、感染後10-90日で現れます。痛みはありません。4-6週間で徐々になくなります。もしこの下疳が活発なときにHIV感染者と性交をした場合、下疳がない人と比べてHIVに感染する確率が2-5倍高くなります。
第二期は下疳が治まってくる頃から数週間のあいだにおこります。からだの他の部位におこる発疹です。非典型的な発疹が多く、他の皮膚疾患と見間違えられることがよくあります。発疹以外に発熱、リンパ節の腫れ、咽頭痛、筋肉痛、脱毛、倦怠感などがおこることもあります。この時点で認識されずに治療が受けられなければ潜伏期間を経て後期へと進みます。
第二期から後期までの期間は10-20年も経ってからおこることもあります。第二期までに治療を受けていなければ後期まで進む確率は約15%です。後期では脳、目、心臓、血管、肝臓、骨、関節などあらゆる臓器が侵されます。筋肉麻痺、しびれ、失明、痴呆症などをおこすかもしれません。
検査は下疳から梅毒菌を検出できれば診断できます。あるいは血液検査で梅毒反応が出れば診断できますが、擬陽性の場合もあるので検査結果の解釈に気を配る必要があります。性病クリニック、あるいは感染症の専門医のアドバイスが必要となることもあります。妊婦が感染していると胎児に影響を及ぼす危険があるので、妊婦の血液検査には必ず含まれています。
治療はペニシリンの投与です。長期感染者の場合は数回にわたって投与しなければなりません。他の性感染症と同様コンタクトの追跡、検査、治療が必要です。第一期なら過去3ヶ月、第二期なら6ヶ月、そして潜伏期に診断された場合は過去12ヶ月におけるコンタクトの追跡が必要です。

HIV

HIVはオーストラリアではほとんどの感染者は男性同性愛の人ですが異性愛の男女でもリスクは多少あります。無消毒の注射針を使用する人、コンドームを使わずに不特定多数の人と性交をする人、HIVの有病率の高い国でリスクの高い行動をとった人、あるいはそのような人のパートナーなどは要注意です。引き続きこのような行動をとるのでしたら定期的に検査を受けることが理想的です。
HIVとはヴイールス感染で、エイズとはこのヴイールスが体の免疫機能を低下させて症状をおこしたときの疾患です。HIVは、始め体内の白血球に侵入します。侵入後の6-12週間のあいだは抗体反応がまだおこりませんので血液検査で探知することはできません。抗体反応が起こる頃にインフルエンザのような症状とともに首や脇の下のリンパ節が腫れたりします。この症状は一過性のものでこの時点で血液検査をしなければHIV感染と気づかずに終わることがよくあります。
その後、エイズの症状がおこるまでに数年かかります。エイズの症状は白血球の免疫機能が弱まることによって日和見性の感染症がおこります。これは通常の免疫力があれば軽い病気ですむような微生物がエイズの場合圧倒的に体を侵します。検査は血液の抗体反応をみれば簡単にできます。最近では抗レトロヴィルス治療が発展し、HIVヴイールスの数を抑えることによってエイズの発症を押さえる治療が進んでいます。このような治療は性病クリニックや専門医で受けなければなりません。
やはりこの病気も無症状のあいだに他人にうつす危険の高い感染症です。性的コンタクトのトレーシングが大事です。ごく最近の性交相手、あるいは注射針を共用した人からはじまり、できれば高リスクな活動を始めた頃、あるいはもし以前にHIV検査を受けたことがあるとしたら最後に陰性という結果が出ていた時期まで遡って調査ができれば理想的です。

その他

B型肝炎は体液(唾液、精液、血液)の交換によっておこるヴイールス感染です。C型肝炎は主に薬物乱用者、あるいは感染した血液の輸血を受けた人に多く見られ、性行為によって感染することはあまりありません。いずれにしろ、どちらも慢性キャリアの場合症状はほとんどありませんので要注意です。病気が診断された場合、コンタクトのトレーシングはやはり最低6ヶ月は遡って追跡調査をすることが理想です。

 

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