鳥居泰宏/ Northbridge Family Clinic


妊娠は病気ではなく、自然におこる現象ですのであまり神経質になることはありません。普段の毎日の生活を送っていて問題はありませんが、特殊な状況もあります。食事、運動、そして旅行に関しては妊娠中は注意しておくべきことがあります。

妊娠中の運動/スポーツ

原則として、よほど過激なスポーツでなければ妊娠前からやりなれていた運動は続けても大丈夫です。妊娠してから何か新しいスポーツに挑戦することは避けたほうがいいでしょう。次のようなことに注意してください。
*妊娠中はエアロビック体操や筋力を保つための調整運動は安全でしかも有益です。
*妊娠中にする運動の目的は健康維持のためであり、限界を極めてフイットネスの頂点を達成することではありません。
*バランスを失って転倒する危険のある運動(乗馬やスキー)をするときは特に注意を払い、無理な事は避けるべきです。
*身体の接触(コンタクトスポーツ)がおこり、腹部に打撃がおこる危険のあるスポーツ(柔道、キックボクシング、スカッシュなど)は避けてください。もし、するとしても妊娠初期(胎児がまだ小さく、 骨盤腔の中で保護されている12週頃まで)のあいだだけにしてください。
*身体の接触のないスポーツは大丈夫です。
*身体の接触が最小限におこるスポーツは妊娠初期から中期の始め頃までは大丈夫です。
*体温が上がり過ぎるようなことは避けなければいけません。サウナ、スパ、炎天下のマラソンなど。
*レクリエーションとしてする軽い運動は母乳の生産、あるいは母乳の質に何も影響は与えません。
*出産後は何も問題がなければすぐにスポーツを始めても差し支えはありません。

妊娠中の旅行

*一般的な考慮
もし旅行をするなら妊娠中期が一番適しています。妊娠初期は最も流産がおこりやすい時期ですし、つわりの問題もあります。
妊娠後期はお腹が大きくなって動きにくいことや腰痛などの問題もおこりやすくなります。目的地での医療事情もあらかじめよく把握しておき、緊急事態が発生した場合に産婦人科や小児科がどこにあるのかなどという情報も入手しておくべきです。飛行機の国際線の搭乗は妊娠35週までが認められています。水上スキー、スキューバダイビング、それに高所で酸素濃度がいところでの活動はさけるべきです。
*食べ物、飲料水
衛生環境の悪い地域では一般の人でも食べ物と飲料水には気をつけなければいけませんが、妊婦の場合はなおさらです。生の魚介類はAとE型肝炎のリスクが高いので禁物です。特にE型肝炎は妊娠中にかかると重症になることが多いので要注意です。
生の肉類もトキソプラズマ、ブルセラ病(Brucellosis)、Q熱(Q fever)などにかかるリスクがあるので必ず火を通したものを食べるようにするべきです。水分はボトルに入ったよく名の知られた飲料水やソフトドリンクで補うようにしてください。
*マラリア
マラリアが流行している地域への旅行は避けるべきです。妊婦がマラリアに感染した場合、胎児も妊婦もどちらも死亡率が高まります。どうしても旅行は避けられず、予防が必要でしたらchloroquine と Proguanil という薬は比較的妊娠中でも安全とされています。Doxycyclineと Mefloquineという薬はどちらもクロロキンに耐性を持つマラリア菌の予防に使われますが、妊娠中は避けた方がいい薬です。また、マラリア地域から出てから3ヶ月は妊娠を避けるべきです。
*予防接種
生ワクチン(live vaccine)は妊娠中はなるべく避けなければいけません。BCG,ポリオ、風疹ーおたふくーはしか、それに黄熱のワクチンはすべて生ワクチンです。不活化ワクチン(inactivated vaccine)は一般に妊娠中でも安全とみられています。
破傷風ージフテリア、B型肝炎などはこの部類に入ります。
*飛行機の旅と血栓症
DVT(Deep vein thrombosis,深部静脈血栓症)は妊娠中にはおこりやすい疾患です。
その上狭い機内で長時間身体を動かさず、水分を控え目にして血液が凝固しやすい状態だとリスクはなおさら高まります。
予防のためには次の点に注意を払っておくべきです。
ー座った状態でも定期的に足首を動かし てふくらはぎの筋肉をよく動かす。
ー2時間ごとに座席から立ってキャビンの中を動きまわるようにする。
ー水分をよく摂る。
ー利尿効果のある水分(アルコールやコーヒー)は摂りすぎないように注意する。

妊娠中の食べ物

妊娠中の体重増加は10~13kgが通常です。妊娠中はダイエットをしたり食事を抜かしたりしないで規則正しく栄養のバランスを考慮して食べるようにしてください。特に炭水化物、野菜/果物、蛋白質、カルシウムは重要です。
必要なビタミンやミネラルは普段の食べ物の中に含まれています。菜食主義者、食習慣が悪い人(特にテイーンエイジャー)それに肥満で食事制限が必要な人などはビタミンやミネラルの補足が必要となることもあります。
*衛生
食べ物を扱うときは必ず手を洗ったり、調理のベンチや調理器具はきれいにしておかなければなりません。生の食べ物は火を通した食べ物と一緒にせず、生肉の汁が他の食べ物につかないように注意を払うようにしてください。病気で嘔吐、下痢をおこしている人が調理したものは食べないようにしてください。
*食べ物の温度
低温で保存しなければならない食べ物はすぐに5°C以下の温度を保っている冷蔵庫に入れておくようにしてください。もし2時間以上冷蔵庫から出しっぱなしにしておいた物は食べないようにしてください。食べ物を解凍したりマリネードする場合は冷蔵庫の中に入れておくようにしてください。食べ物の買い物で時間がかかるような場合はクーラーボックスに入れておくようにしてください。
過熱して料理するときは肉の赤身は残さないように充分に熱くなるまで料理してください。そして、冷めないあいだにすぐに食べるように。温め直すときもよく加熱することが大切です。鶏肉や豚肉を料理したときのジュースは透明であることに注意してください。
生肉をマリネードした料理ではジュースを沸騰させるように注意してください。
*葉酸(Folate)
胎児の初期の発達、特に神経系統の発達に大事です。 二分脊椎(spina bifida)の発生を防ぐことに役立ちます。1日400~600 mcg が必要で、妊娠する1ヶ月前から妊娠3ヶ月まで続けることが理想的です。緑の葉のある野菜(ほうれん草、レタス、ブロッコリ)、ナッツ、オレンジジュース、豆類どに多く含まれます。葉酸の錠剤もあります。
*鉄分(Iron)
胎児は母体から鉄分を引き込んでいます。妊娠中は1日27mg の鉄分を摂ることが薦められています。牛肉、鶏肉、魚、甲殻類、卵、緑の野菜(ブロッコリ、キャベツ、ほうれん草)、豆類などに多く含まれます。鉄分と葉酸が含まれている錠剤(Fefol)もあります。同時にビタミンC(オレンジジュースなど)を摂ると腸からの鉄分の吸収がよくなります。また、カフェインは逆に鉄分の吸収を悪くします。
*カルシウム
妊娠後期には胎児の骨が発達していく時期で、カルシウムが特に必要となっていきます。もし、この時期に母体が充分なカルシウムを摂っていなければ胎児は母体の骨からカルシウムを引き出します。このようなことがおこれば母親が後になってから骨粗鬆症をおこしやすくなります。妊娠中には1日1000~1300mgのカルシウムの摂取が必要です。ミルク、硬いチーズ、ヨーグルト、カルシウム強化された豆乳などにカルシウムは含まれています。このような食べ物が1日2単位必要です。
*ヨウ素
胎児の発達、特に甲状腺の発達に必要です。もし、足りていなければ学習障害、運動障害、難聴などがおこる危険もあります。妊娠中は1日220mcg、そして授乳中には1日270mcgが必要です。オーストラリアではほとんどのパンにヨウ素が含まれています。ヨウ素化された塩や海苔などにも含まれています。
*妊娠中避けた方がいい食べ物
☆ハム、サラミのような加工された肉類
☆殺菌されていない乳製品
☆もやしなど芽のついている野菜は生で食べない
☆鶏肉の詰め物
☆生肉
☆冷肉
☆寿司(店で買った)
☆柔らかいチーズ(カメンベール、リコッタ、フェタなど)
☆ソフトクリーム、Fried ice cream
☆店頭やサラダバーなどで売られているサラダやフルーツサラダ
☆生卵を使った食べ物(マヨネーズやチョコレートムースなど)
☆サバ、カジキ、サメ、まぐろ、スズキなど水銀含有量の高めな魚
*その他
アルコールに関しては妊娠中においての安全なレベルは確率されていませんが流産、死産、出産後の発育異常などとの関連はありますので飲まないほうが安全です。カフェインは1日1-2杯(エスプレッソ)3杯(インスタント)、4杯(紅茶)までが限度です。タバコはもちろん母体にも胎児にも危険です。

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